清春が聖夜に紡いだ3時間超えの“音
詩集”、多彩な楽曲で描く

クリスマス一色に染め上げた横浜公演

 清春が12月23日、神奈川・YOKOHAMA Bay Hallで、全国ツアー『天使の詩’16 FINAL 夜、カルメンの詩集』の横浜公演をおこなった。イヴ前夜のこの日は、2014年を除いて毎年この時期に同所でおこなっているクリスマスライブの位置付け。この日もサンタクロース姿の女性客が目立ち、清春自身も赤色で統一した衣装で新曲を届けるなどクリスマスムード一色に染め上げた。ツアーファイナルは12月31日にカウントダウンライブとして大阪・なんばhatchでおこなわれる。このカウントダウンは今回をもって終了することが決まっており「最後に色んな方に足を運んでほしい」と呼びかけた。

壮大な物語

 「サービス精神旺盛だからさ」と語った清春の今宵のライブは3時間を超えた。一つのライブが、ツアータイトルで示す「詩集」であるかのように、幾つものの世界観で構成され、清春が脚本・監督の壮大な物語は、ラテン音楽を感じさせる新曲で始まり、昭和歌謡やシャンソンをほうふつとさせる楽曲でじっくりと聴かせたところで、後半はダウナーとアッパーなロックナンバーを織り交ぜて盛り上げる。

 アンコールでは更に激しさを伴った楽曲で観客の心を解放させ、終盤に連れて次第にサウンドから歌詞が強調されるようになり、語り掛けるようにその意味を直接心に届ける。そして最後は、清春と観客を繋ぐ音楽という絆を確かめるように重要なフレーズを何度も何度も歌い合った。その“歌”はまさに音楽に捧げる讃美歌のよう。高揚感とともに温かさが心に広がっていた。清春からのクリスマスプレゼントは“音楽という絆”だったのであろう。そう感じさせた夜だった――。

新曲3曲で幕開け

清春

 この時期には珍しいやや暖かい湿った風によって寒さは和らいでいた。会場周辺に長い列を作っていた観客は、開場と共に会場に吸い込まれていく。サンタクロースの衣装に身を包んだ女性客の姿が目立つ場内を、2台のシャンデリアが照らす。その明かりは、焚かれたスモークの粒子に反射して遠くまで広がっている。BGMで流れるアイリッシュサウンドは時折、雑踏に消されながらも優雅に響いていた。程なくして明かりが絞られる。それと入れ替わるようにEDMが規則正しいリズムを刻みだした。そのなかでサポートメンバーが登場。やがて大歓声を受けて清春がステージに姿を現す。

 真っ赤な上着に真っ赤なパンツ、赤と橙のストールを首から下げた清春は、鋭いアコギの音色を背中で受けて煙草をひとのみする。モニタースピーカーの上に立ち、手を頭上に乗せると程なくして力強く歌い出した。新曲「赤の永遠」。乾いたギターサウンドの合間を縫うように高低の音程で情熱的に歌い上げる。リズミックなサウンドに時折入り込む電子音を伴ったドラム。観客は深紅に染まる清春をただ見惚れていた。恒例の横浜公演はこうして幕を開けた。

 立て続けに新曲「夜を、想う」「Amore」を披露する。いずれもアコギサウンドが軸となっていた。「赤の永遠」のサウンドの流れを汲む「夜を、想う」は転調に次ぐ転調。エコーのかかったサウンドとドラムが怪しげな雰囲気を作りあげた「Amore」は、霧がかかる深い森を彷徨うようにサウンドが揺れていた。そのなかで清春の歌声は妖艶に且つ力強く、迷いし観客を導くようだった。

シャンソンのムード

 一転、視界が開くようにエレキギターの歪んだサウンドが誘ったのは「JUDIE」。シャウトする清春に歓声をもって呼応する観客。激しいロックが炸裂する。“カルメンの詩集”という物語の舞台が変わるように「EDEN」からは一転、昭和歌謡やシャンソンの香りが漂うナンバーが続いた。粘り気のある歌声で大人のムードを作る。曲の合間に煙草をふかせる姿はそれを増長させた。曲終わり、サウンドの余韻のなかでソウルフルに歌い上げて結ぶ清春の歌声は圧巻だった。

 ここで約20分にもおよぶMC。観客との一問一答のやりとりでほっこりとしたところで今年3月発売のソロアルバム『SOLOLIST』から「瑠璃色」を届ける。80年代の雰囲気を醸し出すメロディの上で遊ぶ丸みを帯びたギターサウンドは曲全体に柔らかみを持たせた。

 更にムーディーな曲は続く。1月のシングルのカップリング曲に収録されるという新曲「Charade」。夜の静けさのごとく、抑え気味のサウンド上に、清春の澄んだ歌声が流星の様に無数の音を描く。ゆったりと時間を刻む。頭上から照らされるライトによって清春の顔に光と影を作り出していた。その姿は、古代ローマ時代の女性像のように冷たさと暖かさが同居していた。

 ここで清春がアコギを手にする。「だいぶ良い曲になっている」と、「Charade」への想いを語ったところで、自由気ままにギターをかき鳴らし「RUBY」へと繋げた。乾いたギターサウンドがアクセントとなり、タメやドラミングが高揚感を煽る。巻き舌で絡む清春の歌声は妖艶だ。「メリークリスマス」と告げると、アコギの鋭い音色を残して「Christmas」へ。ギターの音色はやがてエレキへと入れ替わる。

コントロールされたロック

清春

 ここからの“章”はどれも激しさを伴ったロックだが、そのリズムはゆったり。前のめりになりそうな身体を自嘲させるように腕を激しく振る観客。主導権はすっかり清春。乗るタイミングさえコントロールされているようだった。

 煙草をくわえたまま、エレキギターに持ち替えた「Masquerade」からは佳境に向けてさらに切り込む。その名の通り「仮面舞踏会」のように赤色のライトを浴び、踊るように腰を落とし、体をくねらせながら激しく奏でる。何度も「Thank You」と囁き、その勢いのまま「wednesday」へ。挑発的に舌で唇を舐めまわす。

 ギターを脱いだ13曲目「lyrical」や14曲目「妖艶」では一転ダウナーに。口からスカーフを下げ、腰を優雅にゆったりと揺らす。優しく歌い上げたかを思えば、迫力の歌声を届ける。その歌声からは、美輪明宏のように強く、美空ひばりのように引き際の繊細な歌唱力が重なった。

 そして、ここから空気をがらりと変えていく。強引に切り空気を引き裂くように飛行機のエンジン音のような歪んだギターサウンドが轟く。スカーフを顔に巻き激しく叫ぶ。「横浜!」。そして、ゆっくりとそれを剥ぐと、四つ打ちビートが響く。サイレンのようなギターサウンドが舞う。カッティングが高揚感を押し上げていく。「ALIEN MASKED CREATURE」で更に煽り、コールアンドレスポンスも随所に決めて、うずく心を抱えたまま最後は「COME HOME」を届けて本編を終えた。

解放されていく心

ライブの模様

 アンコールの声に押されて再登場した清春は黒の上着、黒のハット、赤色の縦ラインが入った黒のパンツ姿。ここでサービス旺盛の20分にもおよぶMCを再び届けてから、まずはゆったりと「MOMENT」。転調の上で華麗に舞う。再びエレキギターを手にして「confusion」。小刻みに手を震わせて興奮の度合いを示す観客。歪んだギターで煽る清春の歌声が突き抜ける。最後は「星座の夜」を届け、疾走感をもったまま終了。

 それでも鳴り止まないアンコール。ダブルアンコールに応えて再び登場。挨拶もそこそこに「横浜! 踊り狂って下さい」と「Feeling high & Satisfied」や「SANDY」「HAPPY」と届けた。激しさを伴ったアッパーな曲たちに心が解放されていく。

 最終的にトリプルアンコールに応えた清春は「来年は24回目のデビュー日。25回目に向けて何かを。皆も日頃は仕事で忙しいと思うけど、心の中で楽しむスペースを設けて欲しと思います。ぜひライブに来てください」と語り「EMILY」。そして「また来年会いましょう。また来年会いに来てください。メリークリスマス!」と告げて「あの詩を歌って」を歌い上げた。

 解放された心に直接語り掛けるように歌い捧げる清春。「あの詩を歌って」では、音楽という絆を確かめるように何度も<あの歌を歌って>を観客と歌い合った。時折、マイクを遠くに外して生の声で届ける。それはオペラのように壮大でいて、より歌詞が強調されていた。音楽という意義を分かち合い、最後に清春は「ありがとう! メリークリスマス!」と讃えて、万感の笑顔を浮かべてステージを後にした。(取材・木村陽仁)

MusicVoice

音楽をもっと楽しくするニュースサイト、ミュージックヴォイス

新着