白波多カミン、飛躍の今年 歌い納め
で感じたサブカルからの脱却

カミンの内面の更新も垣間見えた「涅槃 vol.5」(撮影・熊谷直子)

 白波多カミンwith Placebo Foxesが12月13日、自主企画『涅槃 vol.5』を東京・Shibuya O-nestでおこなった。2016年はバンド形態でメジャーデビューを果たすなど飛躍の年になった、シンガーソングライターの白波多カミン。この『涅槃』シリーズは、縁のある若いバンドを対バン相手に指名し、毎回独自の世界観を提示している人気イベントだ。そして今回は企画としても、バンドとしても、今年を締めくくる最後のライブとなる。しかし、この夜は単純なバンドサウンドの更新だけでなく、カミンの内面の更新も垣間見えた興味深いものになった。このライブの模様をレポートする。

撮影・熊谷直子

 今宵の対バン相手は、ナードなロックバンド、アナトオル・フランス。アフロのギター&ボーカル・尾崎信隆と、女子ドラムス&ボーカル・モテギスミス、それを堅実に支えるベース・杉本清雅の3ピース編成。粗削りながら、男女のマイクリレーのコンビネーションと雰囲気のある演奏を聴かせた。後半は白波多カミンも客演参加するサプライズも。カミンのカジュアルな服装が近頃の女性ラッパーの様なのにも驚いた。

 そしていよいよ、白波多カミンwith Placebo Foxesが登場。彼らにとってサウンドチェックとライブスタートの境目は無い。音の確認の後、そのまま「すきだよ」で彼らのステージは開幕した。

 先程のカジュアルな雰囲気とは違う、黒いニット姿で登場したカミン。この曲は毎回やっているが、観る度に印象が変わる。今回は自由度が上がっている様に感じた。ギター・濱野夏椰の自由なパフォーマンスは相変わらず冴えている。

 2曲目は「姉弟」。イントロの静と動のコントラストがより鮮烈になり、間奏では天を仰ぎながらギターを弾くカミンを照明が色っぽく照らす。控えめなアクションながら、歌うカミンの視線は増々力強く感じられた。

 そして、カミンの声にかけられた深めのリバーブ(残響効果)が効果的だった。「サンセットガール」は短めの曲だが、確かに切ない爪痕を遺す。さらに「あたまいたい」では、サビに突入する瞬間のカミンの裏声にきゅんとさせられる。赤い照明の演出も相まってオーディエンスを魅了。

撮影・熊谷直子

 タイトルをぼそっとつぶやいてから「おかえり。」。バンドが合流する瞬間の音圧が鋭い。アレンジがアップグレードされていた。バンドの初陣の時は粗削りだったサウンドが、まとまってスムースさも感じさせる。

 ここでカミンがMC。「私、今年最後のライブです。明日明後日、明明後日が皆さんあると思いますけど、そんな事は今忘れて楽しみましょう」。アナトオル・フランスの時は饒舌に喋っていたがここでは控えめな口調だ。

 演奏再開。「嫉妬」はミディアムな4つ打ちチューン。シンプルなサビが繰り返される度に強度を増していく。歌の後ろで踊るかの様に漂うギターに耳を奪われた。全員でがしっと決めるエンディングも聴きどころとえよう。

 続く「ハロースター」ではハンドマイクになって歌うカミン。この曲も何度も演奏されている。が、サビを歌うカミンの表状が変わっていた。左手ですがる様にマイクスタンドを掴みながら、オーディエンスにアピールしていく。目が合いそうになって私は目を反らした。1番の山場では右手を空に伸ばして歌い上げる。ドラムス・照沼光星も鋭いフレーズで応戦。

 クールに次々と曲が連結されていく。続くは「ランドセルカバー」。力のあるサビに向かって上昇していくようなシンプルな曲だ。歌とベースだけになる場面では、カミンだけにスポットが当たり、祈りを捧げるような神聖さも感じられた。彼女は長めのボブを振りながらアウトロに身を委ねる。

撮影・熊谷直子

 「あと2曲です」と告げて、カミンがサビをアカペラで歌い始めたのは「バタフライ」。バンドが追い付いた後も切ない歌声が聞き手の胸に迫る。さらに突然のブレイクから、畳み掛ける展開で斬りかかってくる演奏陣。残響が残るラスト。

 「2016の白波多カミンも慕って戴き、ありがとうございます。2017年もやっていきます。ありがとうございました」と話してから、本編最後は「なくしもの」。淡々と進んでいく曲だ。1人、足かせを外された様なギターは効果音的なノイズで楽曲を装飾し、大きな展開のない中で青く揺れる炎の様に静かに盛り上がる。カミンの歌い方も丁寧で、終わりを惜しむかの如し。厳かにエンディングを迎えた。

 程なくしてアンコールにより、もう一度、召喚されるバンドメンバーたち。アンコール1曲目の「生命線」でカミンは今まであまり見せなかった、にこやかな顔で弾き語った。これで彼女の変化を確信した。今年1年の進化だと思う。

そんな笑顔で「今すぐに会いたい」を歌われるのはなかなか気持ち良いものである。3拍子系の演奏は、今日1番ポップで明るかった。最後は轟音まで達する。

 「よっしゃ、まだまだ行くよー」と脱力なMCをしてから「くだもの」。スタンドマイクになる。バンドも微妙なテンポの中でアンサンブルを編んでいく。ここでもカミンは少し大人っぽい、にこやかな表状。髪を手でくしゃっとさせながらマイクに歌を吹き込んだ。

 「さよならメリークリスマス!良いお年を」MCの感じもやはり明るくなったと思う。一皮むけた間がある。この夜最後の「今すぐ消えたい」ではオーディエンスにクラップを要求。オーディエンスに向かって手を伸ばして、元気よく歌う。その後バンドメンバーよりひと足先にカミンが退場してライブは終わった。(取材・小池直也)

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