中島みゆき「一会」劇場版でリハ初公
開、舞台裏に触れ広がる物語

中島みゆきConcert 「一会」2015~2016 劇場版(c)YAMAHA MUSIC PUBLISHING,INC.

 シンガーソングライターの中島みゆきの『中島みゆき Concert「一会(いちえ)」2015~2016 劇場版』が来年1月7日に公開される。同映画は中島が2015年11月12日から2016年2月11日まで東京と大阪で計15回の公演をおこない、約6万人を動員したツアーの公演の模様を映像化したもの。

 今作で収録されているのは、2月におこなわれた東京国際フォーラムで開催されたコンサートの模様。さらに劇場限定で約30分に及ぶリハーサルの模様が同時上映される。中島のリハーサルの様子が、映像として公開されるのはこれが初めてとなる。そして、先日その公開に先立ち、都内某所でおこなわれたマスコミ向けの試写会で今作を鑑賞することができた。

 まず、本編が始まる前に劇場ではリハーサルの模様が放映される。この映像はモノクロで、この演出が後に大きな意味を持つことになる。リハーサルの映像はスタジオで、1988年の『グッバイガール』以来、彼女の音楽を支え続ける、音楽プロデューサーの瀬尾一三氏の指揮のもと、中島ほか、サポートミュージシャンたちが最高の演奏を生み出すまでの軌跡が収められている。

 そのほかにも、中島本人が本番で使う衣装の打ち合わせ、ステージのセットの細部にまで目を配る様子が見られる。こういう所から中島がライブというものを、ただ音楽を生演奏して再現するものではなく、1つの作品として新たに創り出していることが分かる。この映像により、実際にツアーに赴いた人も、当時をまた違った視点で見直す機会を得られるのではないだろうか。

中島みゆきConcert 「一会」2015~2016 劇場版(c)YAMAHA MUSIC PUBLISHING,INC.

 さらに、リハーサルの段階でも瀬尾氏による変更が幾度となく付け加えられていく。それに頭を抱えながらも、ミュージシャンたちはその要求に応えるよう試行錯誤を繰り返していく。この苦難を目にするのと、しないのではやはり本編に対する思い入れもを大きく変わるだろう。

 ステージは3部構成で、第1部は「Sweet」、第2部は「Bitter」、第3部は「Sincerely Yours」と名付けられている。ステージ裏までを収めたリハーサルの映像から一転、ステージを観客側から映す映像は本来のカラーで彩られる。この時にまず、舞台衣装のカラフルさ、そのバランスに思わず目を見張る。

 そして中島がゆっくりとステージ中央に現れる。極めてシンプルな衣装が、逆に凛と浮き立つピュアな魅力を引き立てている。ここからはライブに訪れた人はお分かりだろうが、中島の持つその声量と声色の多様さに驚かされる。

 リハーサルの映像では中島が本格的に歌唱する様子は映し出されてないという編集もあるのだが、脇を固めるコーラス陣も元The Kaleidoscopeのギターボーカルを担当していた石田匠、4人組ヴォーカル・グループ「JIVE」のリーダーである宮下文一、ソロボーカリストとしても活動する杉本和世とプロとしても第一線で活躍するボーカルと豪華な布陣だ。

 しかし、それをも圧倒的に凌駕する、プロとかアマチュアとかを超えた次元の歌声が会場を飲み込んでいくのがその映像からも伝わってくる。リハーサルの映像で瀬尾氏が「コーラスはメインじゃないからって、遠慮しなくていいからね」と言っていた言葉の意味が理解できる。

 何よりも日本において、70年代、80年代、90年代、2000年代と4つの世代でシングルチャート1位に輝いた女性アーティストは、中島ただ1人であるという史実がそれを物語っている。

 今作に収められている公演では、中島が新旧、シングル曲にこだわらず「今こそ聴いて欲しい曲」である20曲を披露している。1995年の日本テレビ系ドラマ『家なき子2』の主題歌として知られ、ミリオンヒットを記録した「旅人のうた」や2014年のNHK連続テレビ小説『マッサン』の主題歌である「麦の唄」、2014年のアルバム『問題集』に収められている「ジョークにしないか」など世代を問わず、楽しめるのも今作の魅力だ。

 中でも筆者が目を奪われたのは、2012年のアルバム『常夜灯』に収録されている「あなた恋していないでしょ」だ。<理屈に適うことばかり 他人事みたいに話すのも♪>と語り掛けるように歌い、<それも悪くはないかもね♪>と頷くように遠くを見つめる。しかし、最後は<気をつけなさい 女はすぐに 揺れたい男を嗅ぎ当てる♪>と低く肝に響くような声で歌い上げる。

 こういう男女どちらの心情にもコミットできる、彼女のバイタリティが如何なく発揮された曲が、世代が変わっても普遍的に愛される要素となっているのではないだろうか。

 コンサートに赴いた人もそうでない人も、リハーサルとこの公演の模様を収めた作品を観ることで『一会』という物語と新たな出会いを果たせると思う。この作品にはそのような意味がある。(文・松尾模糊)

 ◆中島みゆき 1975年「アザミ嬢のララバイ」でデビュー。同年、世界歌謡祭「時代」でグランプリを受賞。76年にアルバム『私の声が聞こえますか』をリリースし、現在までにオリジナル・アルバム41作品をリリース。アルバム、ビデオ、コンサート、ラジオパーソナリティ、TV・映画のテーマソング、楽曲提供、小説・詩集・エッセイなどの執筆と幅広く活動している。

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