角松敏生の決意表明、心に生き続ける
楽曲 16年締め括りステージ
ミュージシャンの角松敏生が12月9日・10日に、東京・中野サンプラザで、年末恒例のライブ『Toshiki Kadomatsu Performance Close out 2016 & Ring in The New Season』をおこなった。デビュー35周年というキャリアを持つ角松は今年、その記念に7月に横浜アリーナで公演時間6時間半、40曲をプレーというとてつもない規模のライブなど、精力的な活動を展開してきたが、今回この2日間の公演は、まさしくタイトル通り、この2016年の締めくくりと共に、かつ新たな時を迎える前哨ともいえるステージとなった。また、角松はこの日、封印していたインストゥルメンタル・アルバムの制作を来年、解く決意を表明した。本稿ではこのうち、前編となる前日の模様を以下にレポートする。
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ダンサブルできらびやかなサウンドが、会場を彩る
BGMとして70~80年代のディスコサウンドが次々と鳴り響いていた会場。16ビートのリズムが、ライブスタートのワクワクしてくるような瞬間を、さらに期待できるものにしていた。このリズムはまさに角松の楽曲の命ともいえるもの。ほとんどの楽曲がこのリズムに支えられ、夢のような瞬間を演出している。そして定刻を少し過ぎたころに、会場の照明が落とされ、同時にフロアからは観客からの拍手が静かに沸き起こった。
1人、また1人と登場するサポートメンバー、そして最後に現れた角松は濃紺のスーツに、オレンジのシャツとネクタイというスタイリッシュないでたちで、黄色いメガホンを片手に登場。そして自身の登場をアピールするとともに、観衆をあおる。その姿に、観衆は歓喜の声をあげるほかないとばかりに、ステージの開始を目前として既に興奮しきっていた。
やがてステージ中央で、アコースティックギターを抱えマイクの前に立つ角松。そしてそのギターをつま弾きながら「Realize」へ。16分音符の頭のビートを強調した、マーチのような躍動感が会場に充満する。そして、高らかに響く角松の歌声。歌い出しからサビまで、艶やかに張りのある声でメロディを紡ぐ。それはまるでせわしい毎日の中に忘れかけていた、人生の中の輝く瞬間を思い起こさせてくれるようなものだった。
続く「Dancing Shower」から、角松の作り出すサウンドの真骨頂ともいえる、まさにダンサブルできらびやかなサウンドが会場を彩る。ここはイルミネーションがあちこちで輝くニューヨークの夜の街角? それとも太陽輝くウエストコースト? まるでおしゃれでドラマチックな場所に降り立ったかのような会場。日常とはまた違った、新たな魅力にあふれる瞬間がここにはあった。
新たな年に向け、インストゥルメンタルアルバム作りを決意
サンリオピューロランドでおこなった『TOSHIKI KADOMATSU Produce「ILLUMINANT REBIRTH “NIKOICHI” feat.MAY'S」』や、『TOSHIKI KADOMATSU × DJ OSSHY ~Dance Party 2016~』、さらには『角松敏生 meets アロージャズオーケストラ』と、2016年は自身の音楽と、他ジャンルの様々な融合にチャレンジし続けてきた角松。その1年を振り返るように、バラード「美しいつながり」を奏でる。さらにそんな目まぐるしい1年の中で、彼を支えた2人のボーカリストをここではフィーチャーした。この日コーラスを務めた片桐舞子(MAY’S)と「DADDY」をデュオ、さらにもう1人のコーラス担当である為岡そのみのソロ「Last Scene」が披露される。この2曲は、プロデュースを角松がおこなっている。
2人の女性ボーカルソングの後に、角松は改めて語る。自身のボーカルに対するこだわり、反してコーラス・アーティストを抱えておこなうライブツアーの難しさ。そして今回ステージに登場した2人のアーティストへの敬意を表しながら、来年は2人の卒業という経過とともに、新たなアルバムとして久々のインストゥルメンタル・アルバムを制作することを発表した。
かつて角松のサウンドにはこの人ありとばかりに、その屋台骨を支えてきたベーシストに、故・青木智仁さん(享年49歳)がいる。生前、国内トップクラスの実力を持ち、テクニック、グルーブ等に秀でた才能を発揮していた青木さんは、生前に角松のリリースしたほとんどのアルバムに参加し、絶対的な信頼を得ていた。しかし彼は2006年に急逝、以来角松はインストゥルメンタル・アルバムを作るという思いを封印していたという。しかし来年に向けてのコーラスサポートの卒業、そして「改めてギターを練習したい」という自身の思いの芽生えをきっかけに、その封印を解くことを決意したと明かす。そんな2017年への思いを込めるかのように、角松のギターとともに、この日彼を支えたサポートメンバーの超絶テクニックが光るインストゥルメンタル・ナンバー「OSHI-TAO-SHITAI」へと続く。
いつまでも、人の心に生き続ける
そしていよいよステージも終盤に。ゴスペルのクワイアを迎え、ファンキーなグルーブで「Get Back to the Love」で会場を盛り上げると、1987年に女優・歌手の中山美穂へ提供した「CATCH ME」から「初恋」、「Girl in the Box~22時までの君は・・・」と定番ともいえる16ビートのグルービーなサウンドでステージを終えた。なおも沸き起こるアンコールに応え、3度のアンコールを行った角松。途中、多くの人に愛されている曲「ILE AIYE~WAになっておどろう~」のキャッチ―な空気が、さらに観衆の気持ちを揺さぶり、観衆は気持ちよさそうに体を揺らす。
アンコールのラスト、そしてこの日のセットの最後は「これからもずっと」。2度目のアンコールの際、角松は自分の音楽を若い世代の人たちに継承してもらいたいと語った。「人って、2度死ぬといわれています。1度目は本当に死ぬこと、2度目はみんなから忘れ去られるということ。でも忘れられなければ、みんなの心の中で、ずっと生き続けられる。だから皆さんも、自分のために“残していく”ということを考えることを、大切に考えてみてもらいたい」その真意を語りながら、再び次の10年後を目指して邁進することを誓った。
封印を解き、インストゥルメンタル・アルバムを作ることを決心したのも、まさしく角松の心の中に青木さんをはじめとしたミュージシャンたちとの共演、共作の歴史が生き続けているからこそであり、自身が体験してきた数々の素晴らしい奇跡の瞬間を、いつまでも残し、広げていきたい、そう考えるからに違いない。新たな年には、また角松は新たな奇跡も見せてくれることだろう。そうやって積み重ねられたものを、いつまでも胸の内で生かしていきたい、そう願わずにはいられないライブだった。(取材・桂 伸也)
セットリスト
Toshiki Kadomatsu Performance Close out 2016 & Ring in The New Season 12月9日 中野サンプラザ 01. Realize encore 2nd encore 3nd encore ▽参加メンバー |