上間綾乃、南風を呼び込んだ東京公演
 沖縄色に染める独特の歌声

上間綾乃の歌声はどの曲も沖縄色に染め上げた(C)Tomoko Hidaki

上間綾乃の歌声はどの曲も沖縄色に染め上げた(C)Tomoko Hidaki

 沖縄出身のシンガーソングライター・上間綾乃が11月26日に、東京・日本橋三井ホールで、全国ツアー『4thアルバム発売記念ツアー2016 ~魂うた』の東京公演をおこなった。7月に発売したアルバム『魂うた(まぶいうた)』を引っ提げてのライブで、多くのファンが会場に詰め掛けていた。「ウチナーグチ」と呼ばれる沖縄方言で歌うレパートリーが多い上間。今回のセットリストも沖縄の曲からポップな曲、エキゾチックな曲まで幅広く並べられていたが、どの曲も沖縄の風を感じさせた。MCでは故郷への想いを語るなど、優しい彼女の人柄がにじみ出ていた。曲にトークにファンに感動を与えた東京公演のもようを以下にレポートする。

(C)Tomoko Hidaki

(C)Tomoko Hidaki

 ステージが暗くなると、三線を持った上間がクールに入場。程なく歌い始めた。「てぃんさぐぬ花」を歌と三線だけで。2つの音しかないが、ミニマルな分、両者のコントラストが際立つ。紫の照明が彼女をほのかに照らしている。朗々と歌い切ると、演奏よりも大きいかもしれない程の拍手が。上品に頭を下げる上間。

 ピアノ・園田涼、ギター・佐々木貴之、パーカッション・桑迫陽一らによるバンドメンバーが入場。透明感のあるピアノの上で上間がポエトリーリーディング風に話してから、「童神」。冒頭を三線と鍵盤で聴かせ、2コーラス目からバンドが合流。スケール感のある演奏を展開する。アコースティックギターとピアノの間奏もぐっときた。

 「私の故郷には歌以外にも想いを伝えてくれるものがあるの。蝶。美しい蝶に想いを乗せて、あの人の所まで飛んでいけ」とロマンティックなMCから「綾蝶」が始まった。優しいギターのイントロから。中盤でジャンベの低音が鳴らされた瞬間、この夜、初めてベースの音域が埋まる。オーガニックなサウンドだけにそういう、普段気づかない様なちょっとした事にどきっとした。ゆったりとしたメロディが心地よい。

 ここから、それまでの沖縄っぽい感じから一変。「里よ」。ギターの鋭いカッティングで切り込んでスタート。アコースティックながらも4つ打ちの楽曲だ。ラテンなリズムでかなり踊れる感じだった。上間は情熱的に、体をくねらせながら歌っていく。沖縄っぽいアプローチは薄い。エンディングは3つ綴りで全員が合わせて派手に。

 MCが挟まれる。「晴れましたね、良かった。今日は起きて、凄い気分が良かったです。ついこの間も雪が降りましたね。見ました? 皆さんと青空のもと、スキップしながら来られる様に祈っていたんです。私のおかげです。ありがとうございます」と少しおどけて笑いをとる。

(C)Tomoko Hidaki

(C)Tomoko Hidaki

 そこからMCの内容と掛けたように「明日ハ晴レカナ、曇りカナ」を披露。上間のリードで会場にクラップが起こる。牧歌的なこの曲に、園田によるピアニカの音が映えた。

 また、上間がステージに1人になって「懐かしき故郷」を弾き語ってから「今回『魂うた』のCD、この人無しでは作れませんでした」と本日のゲストであるピアノ・井上鑑を呼び込んだ。

 軽妙なトークを展開してから2人で「南風にのって」を披露。井上がゴスペル風のピアノを提示してから、上間がそこに歌で乗り込んでいく。メロディは歌謡曲風だが、上間が歌うと沖縄の質感が加わるから不思議だ。彼女は左利きなのか、左手でマイクを持って、空いている右手を鳥の羽の様に広げて歌っていた。2人の緊迫したアンサンブルがスリリング。しかし終わりは柔らかかった。

 もう1曲2人で演奏したのは、パブロ・カザルスの作曲による「鳥の歌」。これを上間のウチナーグチで歌うという、今回初披露となったユニークな形式だ。質感はとても良く混ざっている様で、聴きやすかった。演奏後は大きな拍手が会場に起きる。

 ここからは、井上にバンドメンバーも加えた4人編成の伴奏。シンセサイザーの音が気持ち良い「ミカヅキの夜に」、井上のアコーディオンが効いた「さとうきび畑」、上間の声がしみ込んでくる様な「悲しくてやりきれない」と抑制された楽曲が配置されていく。

 そして、「後半戦に行きましょうか」と上間がぽつり呟いて「道端三世相」に繋がった。ところどころで「せいっ」と掛け声を入れる上間が凛々しく、可愛い。歪んだギターのノイジーな質感が効果的で、突然のブレイク部分もどきっとさせられた。どんどん熱を帯びて行く上間のウチナーグチ。ラップの様にまくしたてていく。それに伴いバンドもヒートアップ。アウトロのギターソロも冴えていた。

 テンションをそのままに、上間がカウントを入れると今日1番の速さで「ヒヤミカチ節」。速いリフをアコースティックギターと三線がご機嫌にユニゾンする。オーディエンスもクラップで盛り上げる。演奏は疾走。上間はくるくる回りながら、髪を揺らして楽しく弾いていた。これには、観ている側もハッピー。可愛さも今日1番だった。

 ここで観客とスタッフとに感謝を告げる上間。彼女はほとんどの曲にポエトリーリーディング的な語りやMCを入れるが、間の取り方だったり、時に韻を踏んだりして場を整える。雰囲気づくりが本当に巧みだ。

 「次の歌はタイトルも決まっていません。CDに入っていません。歌詞も決まっていません。でも、皆さんに感謝の気持ちを込めて歌います。心からの『ありがとう』。どうか受け取ってください」と話して「名なし歌」を歌った。3拍子だが直前までの高揚をなだめるかの様な、静けさを含んだ演奏だった。

 「あまり作詞作曲はしませんが、空から降ってくる時だけに作ります。作るっていうよりも降ってきたものを拾い集めて形にするっていう感じ。アマレイロはポルトガル語で黄色という意味です。私の進む道にもアマレイロ、皆さんの進む道にもアマレイロ、ハッピーな色が輝いています。今日は来てくれて本当にありがとうございます。最後に聴いてください」と話して、本編最後の「アマレイロ」へ。

(C)Tomoko Hidaki

(C)Tomoko Hidaki

 MCと呼応して、黄色の照明がステージに広がる。印象的なサビに向かってドラマティックに展開していく。会場には黄色いサイリウムを振るファンの姿も。壮大で希望を感じさせる楽曲だった。長いアウトロでは、鳥の様に舞う上間。綺麗だった。

 「ありがとうございます」と言い残して、退場していった上間。演奏に対して贈られた大きな拍手は、そのままアンコールの拍手へと変形していく。ほどなくして再登場する上間とバンドメンバー。

 アンコールはなんと「アメイジング・グレイス」のウチナーグチによる演奏から始まった。どんな曲とも不思議と溶け合ってしまうから面白い。井上の大胆かつ繊細なピアノに背を押される様にして、上間は歌い始めた。シンセサイザーとピアノによる浮遊感のある伴奏が神秘的。

 「大切な曲を取っておきました。終わりは始まりです」とMCをしてから、この夜を締めくくりに上間が選んだのは「命結-ぬちゆい」。エレキギターから始まるイントロに続いて歌う。とは言え、うるさすぎず歌を尊重したアレンジ。上間の歌がくっきり聴こえてきた。ギターソロで転調し、ギアを上げて盛り上げていく。どんなに現代的な楽器で演奏されていても上間の声は沖縄を感じさせるものだった。ピアノが綺麗に高音に登って行って、しっとりと今夜の演奏は幕を閉じた。(取材・小池直也)

セットリスト

上間綾乃 4th album発売記念ツアー2016~魂うた(まぶいうた)
11月26日・日本橋三井ホール

01.てぃんさぐぬ花
02.童神
03.綾蝶
04.里よ
05.明日ハ晴レカナ、曇リカナ
06.懐かしき故郷
07.南風にのって
08.鳥の歌
09.ミカヅキの夜に
10.さとうきび畑ウチナーグチver.
11.悲しくてやりきれない
12.道端三世相~創作舞踊「辻山」より
13.ヒヤミカチ節
14.名なしうた
15.アマレイロ
En1.太陽 月ぬ光~アメイジング・グレイス
En2.命結-ぬちゆい

▽メンバー
園田涼(Pf/Key/鍵盤ハーモニカ)
佐々木貴之(Gt)
桑迫陽一(Perc)
Guest:井上鑑(Pf/アコーディオン)

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