「そんなの花と一緒じゃないか」……
投げやりな程に切なく咲く、GOOD ON
THE REELという名の「花」

桜やコスモス、スイートピーなど、あらゆる種類の花にミュージシャンは夢や恋を託したり、散りゆく姿に切なさを抱いたりしながら詞を綴る。そこには健気に咲き誇る花の姿への敬意があり、「咲く事」は勿論「散る事」でさえも前向きに捉え、その美しさを前提に詞を描こうという気持ちが表れている。
そんな中、「花なんていらない」と投げやりなまでに堂々と言い放っている楽曲がある。GOOD ON THE REELの『花』と言う曲だ。



GOOD ON THE REELは昨年6月にメジャーデビューしたばかりの5人組ロックバンド。メンバーそれぞれの安定感あるプレイヤビリティによる力強いバンドアンサンブルと、ストレートで切なさの滲むたおやかなメロディが強みである彼らの楽曲の中でも、『花』はインディーズ時代から特に人気の高いバラードだ。
低音の静かなギターのアルペジオによる短いイントロの後、ボーカル千野隆尋の透明感のある歌声によって、この曲は幕を開ける。





「彼」「彼女」と言う三人称の語りで始まるこの歌詞は、こんなワンフレーズ目から異彩を放っているように思える。すれ違いに苦しむ男女の姿を描く楽曲は数多くあれど、その大半は男女のどちらかに感情移入した形で描かれる事が多い筈だ。しかし、この楽曲ではありふれていると言っても差し支えないような「すれ違い」と言うテーマを小説のように俯瞰的な表現で淡々と描く事で、一味違う雰囲気を醸し出している。また、タイトルとなっている「花」はここまで登場しない。

歌詞同様、千野の歌声もうわ言のように淡々と俯瞰的に紡がれていくが、バンドサウンドが一気に重奏感を増すサビに差し掛かると、彼の声も弾かれたように熱を帯びる。



ここにきてやっと「花」が登場した。しかし、その枕詞だと言っても過言ではない「美しい」「綺麗」「咲く」「散る」と言ったようなフレーズは何処を見ても存在しない。ここで描かれる花は決して美しい「だけ」のものではなく、あくまでも「いつか消えてしまうもの」の象徴なのだ。
大サビの前のフレーズでは、更にふたりが抱える虚しさに踏み込んでゆく。



どんなに互いが想い合っても、人間である限りいつか離ればなれになってしまう。たとえ永遠の愛などと言うものを誓い合ったとしても、死がふたりを分かつ可能性だってゼロではないのがこの世の摂理だ。そんな当たり前の事に彼女は気づき、一生懸命に目を逸らそうとしている。彼も気づいてはいるがそこから目を逸らし続けた事によって、いつしか忘れ去ってしまったようだ。それによって、ふたりはすれ違ってしまった。

「彼女はいつも怯えていたんだ」と言う悔恨を含んだ言い回しから、ここではもう既に冒頭のような単なる俯瞰的な三人称ではない事が透けて見える。そこには、遂に抑えきれなくなってしまった可哀想な「彼」の途方もない後悔と悲しみが溢れているのだ。

男女の愛情のみならず、今現在存在している全てのものはいつか消えてしまう時を迎える。詞の世界ではそんな儚いものをいつか散りゆく「花」に託し、「儚いからこそ美しい」と美化する事が多い。だが、GOOD ON THE REELはそんな生易しいことはしない。

彼らは、普段は敢えて目をそらしてしまう部分、心のどこかに必ずある「消えてしまうなんて悔しい」「どうせいつか消えるなら始めから手に入れない方が良かった」というような気持ちを、執拗なまでに真正面から受け止めて歌う。しかもどんなに醜く悲しい感情でも、千野の描く文学的な歌詞、そして繊細な優しさと圧倒的に美しいビブラートが共存した迫力ある歌声が、美しい物語として成り立たせてしまうのだから、凄いを通り越して恐ろしいぐらいだ。

千野の二つ名である「歌う文学青年」は伊達じゃないと、その優しさと厳しさの入り交じる詞を読む度に、その歌声を聴く度に思い知らされる。

最後の大サビに差し掛かっても、悲しい恋人達は明確なエンディングを迎えない。安易なハッピーエンドもバッドエンドも用意しない点も、彼の描く詞世界の魅力のひとつだ。





絞り出すように何度も何度も繰り返される「いらない」から、醜い感情と敢えて向き合い、言葉にして噛み締めようと努力する健気な強さを感じる。

GOOD ON THE REELの美しい言葉や音を通してなら、普段は目をそらしてしまいがちな感情とも向き合えるだろう。それは、日常の中で不意に抱いてしまう「感情のわだかまり」のようなものを優しく溶かし、最高のカタルシスをもたらしてくれるに違いない。

TEXT:五十嵐 文章

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