ヒグチアイ「自分の見つめ方、教えま
す」あふれる思いを包み隠さず表現し
たメジャーデビューアルバム

この中で聴こえる、ヒグチアイの淡々とした語り口のようなメロディの中には、様々な思いや自身の記憶の中に、何かの答えにつながるヒントを導き出す物語を語っているようにも見える。

自身を客観的に、厳しく見つめて作った作品


 アルバムは、ちょっと意味深にも思えるタイトルのオープニングナンバー「誰かの幸せは僕の不幸せ」で幕を開ける。「なんて後ろ向きなタイトルだ」と思う人もいるかもしれない。しかしこのフレーズと、曲の最後にある「わかりあえないなあ わかちあえないなあ だけどわかりあいたいなあ わかちあいたいなあ」という詞の対比が、何かを妬む気持ちというより、もっと前向きな意思が存在していると認識できる。

いろんな言葉をAメロに集結させ、その行きつくところは「分かり合いたいな 分かり合えないな」という、あくまで前向きな意思を表している。

 また彼女の曲は、何か歌の響きや音楽性よりも、例えば字余りなど気にしない、全般的にはもっと自身から沸き上がったもの、それを素直に出したもの、という印象が強い。極端な話、聴くに堪え得るものよりも、彼女がもっと大事にしているものはそれを聴いたときに素直にメッセージが受け取れること。その目的に向けて、自身の作ったものを客観的に、厳しく見つめているようだ。

自身の心の中にある要素を、たくさんの言葉で積み上げたAメロと、自分の思いを吐き出すようなサビ、そうやって一つ一つを大切に作り上げた楽曲は、粗削りにも感じられながら、何かすっと聴くものの中に言葉の雰囲気が入ってくる感じがある。

私小説のようなストーリー性


 「誰かの幸せは僕の不幸せ」に続いて、冒頭には自分史を語るように「猛暑です」「ぼくとおばあさん」「さっちゃん」と、自身の身近な存在から、現実的な部分を見つめ、綴っている。そして「衝動」から自身の内面を情感も豊かに歌い上げる。人を思う気持ち、荒んでいる自身を深く見つめる気持ち、と様々な内面をさらに深く掘り下げる。

そして少しコミカルな雰囲気の「シンプル」が、自身の気持ちをまとめる。さらにあまりある自身の心に残ったもの、記憶や思いのたけを詰め込んだような「備忘録」でエンディングを迎える。一枚を通して聴くと、一つ一つの曲がまるで私小説ののようなストーリー性を持っており、一つ一つの曲に対して、人それぞれのいろんな思いと対比して、物語を感じることができるだろう。

 アルバムを一枚通して聴いてみれば、そんな作風が十分に理解できるとともに、彼女が歌わんとしていること、自身の気持ちに響くことなど、様々な思いや風景がより深く共有できることだろう。メジャーデビューという一つの区切りで、ヒグチは何か人が自分自身を見つめる指針の一つを示しているようにも見える。

なかなか自分のペースを保つことができず、自身を見つめ直すということが困難にも感じられる現代だが、ある種彼女の作り上げる表現は皆が待ち望んでいる種のものかもしれない。もちろん今後リリースされるものは、また彼女自身がいろんな経験で積み重ねた結果に得るものを新しい風景やストーリーとして見せてくれることだろう。

しかしまずはこのアルバム、いろんな人々に受け止めてみてもらいたいものだ。

TEXT:桂伸也

ぼくとおばあさん MV

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UtaTen

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