約12年ぶりとなる福井敬(テノール)と横山幸雄(ピアノ)の共演、福井敬が語る「美しき水車小屋の娘」の魅力とは



    松本隆さんからお話をいただき、喜んでお引き受けしました。そして私から、ぜひ横山さんのピアノと共演したいとお願いしたんです。大変才能のあふれる方で、当時すでにソロのピアニストとして名を成していらしたのですが、ソロのピアノの方とご一緒に作り上げることで、新しい何かが生まれるんじゃないかなと言う気がして。よろしければ、というお話をしたらご快諾をいただきました。

    ――共演してみていかがでしたか。

    やはりすばらしかったです。繊細で、タッチも柔らかくて。横山さんと演奏していると、ピアノも、その時々の情景や、言葉には表れていない心情などを表現しているのだなと、鋭敏に感じます。例えば、シンプルな和音がポンポンと弾かれるようなところでも、その中にメロディが聞こえてくるんです。ただの前奏や間奏ではない。ちゃんと歌まで橋をかけてくれる。それがとても新鮮でした。

    横山幸雄(ピアノ)

    ――CD発売後にコンサートをされて、今回はそれ以来ですか。

    はい。12年ぶりの共演です。お互い年月を経て、輝いているか、どう変化しているか楽しみです。

    ――ドイツリートを難しいと思われる方もいらっしゃるようです。

    ひとつは言葉の問題がありますよね。「歌」というのは、音楽でもありますが、やはり「言葉」で、ドイツ語で聴いても分からない、と思う方もいらっしゃいます。ただ、どんなに「美しき水車小屋の娘(以下、水車小屋)」を知っていらっしゃる方でも、ドイツ語で聴くと、ワンクッション、自分の中で言葉を日本語に変換してからイメージをされる。

    それが、今回の日本語の訳で聴くと、ダイレクトに心の中にドラマが入ってきます。最初は「えっ」と思われるかもしれませんが、以前何度か横山さんとコンサートをしたときも、お客様がどんどんドラマの中に入っていくのを感じました。歌曲集を聴くというよりは、ご自分で映像を想像しながら、一つのドラマを見るような、あるいはラジオドラマのような雰囲気があるかもしれません。

    ――松本さんの詞についてお聞かせください。

    松本さんは、本当にクラシックがお好きなんですよ。この企画も、誰かに頼まれたわけではなく、ご自身がお好きだったから始められたとのこと。ドイツ語の詩も調べに調べ上げて、音楽も勉強されて日本語詞を作られています。シューベルトのメロディは、ドイツ語のイントネーション、高低、強弱につけてあるものなので、それを日本語に置き換えるのは、極めて大変な作業なんです。でも松本さんの詞は、元々この詞がついたのではないかと思うくらい、とても自然に歌えます。天才的に、音に詞を乗せていらっしゃるんですね。

    以前松本さんは、日本語詞を作るときに、ドイツ語の詩の内容から、半分以上捨てなければならなかったとおっしゃっていました。日本語の特性として、1音1シラブル、というのがあります。「わたし」には3つの音が必要ですが、ドイツ語なら「Ich(イッヒ)」1音で表現できます。だから訳詞には、本当に必要な言葉だけを選ばなければなりませんが、松本さんの詞は、それが詩的にもすてきな言葉になっているのがすばらしいなと思います。しかも私たちが普段使っていることばで堅苦しくない。「水車小屋」の主人公は粉屋の見習い職人です。若くて、知識もお金も学もない、だけれども職人として名を成していこうという、一少年のことばで語られるものなので、それに即した言葉が使われています。

    松本隆



    ――福井さんにとって「水車小屋」はどんな作品ですか。

    淡い恋心だとか、自分の目指しているものに到達できないジレンマだとか、かつて岩手から東京に出てきた時の、ワクワク感と不安感、両方が入り交じった感じとか、そんな青春を呼び覚ます作品です。

    主人公が本当に「自殺」するのかというのは、ちゃんとは書かれていないんですよね。彼が恋を知ることによって、ひとつ大人の世界を知って、それが少年としての「心の死」なのかもしれないとも思います。私自身、いつも原点に帰れる大好きな作品です。

    ――今回の聴きどころを教えてください。

    横山さんのピアノ、私が歌うシューベルトのメロディ、松本さんのことば、すべてが織りなして、約1時間、1本の稜線を描きます。粉ひきの少年が、どう大人になるのかという音楽とドラマを、リアルタイムで感じていただきたいなと思います。トークタイムもありますので、そちらもお楽しみに!


    公演情報浜離宮アフタヌーンコンサート

     日時:2016年12月6日(火)
     会場:浜離宮朝日ホール
     出演者:福井敬(テノール)/横山幸雄(ピアノ)
     曲目・演目:シューベルト(ミュラー原詩、松本隆日本語詞):歌曲集「美しき水車小屋の娘」op.25 D795ほか

     

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