ミスiDの功罪&新書でるよ:ロマン優光
連載69

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第69回 ミスiDの功罪&新書でるよ

 唐突ですが、私、2016年11月2日に二冊目の新書『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コア新書)をだすことになりました。サブカルについて触れた本ですが、サブカルという人の数だけ定義があるものを語るのに対して、暫定的に「この本の中では、こっからここまでがサブカルということに仮にしておきます」という前提をおいて語る構成になってます。だから、「私の考えるサブカルの定義と違う」と言われても「そうでしょうね。」というしかないですよね。あと、私は自分が日本人であることを良いことであるとも悪いことであるとも思ってないように、誰かや、何かが、サブカルであることが良いことであるとも、サブカルでないことが悪いことであるとも思ってないので。ちなみに宅八郎さんについてはビタ一文触れてません。私にとっては宅さんはオタクギミックを使ったサブカルチャーのライターさんで、この本の中で扱うサブカルの人ではないからです。以上。
 それはさておき、実は気になっていることが一つありまして、実はこの本の最初の宣材に載ってた仮の目次タイトルの中に「ミスiDについて」の項目があったのですが、実際の本編の中では一切触れてないんですよね。詐欺だと言われたらどうしようと思って心配でなりません。というわけで、ミスiD2017の結果もでたことですし、今回はミスiDについて考えてみたいと思います。

 ミスiDというのは不思議なミスコンで、グランプリ・クラスには芸能の世界で通用するルックスとポテンシャルを持っている人がたいてい選ばれている商業的なミスコンである一方、実質のメインは、自分の世界でもって世間に挑戦したい女の子、自己肯定できる自分になるためにミスiDという場にやってきた女の子、一発逆転を狙うキャリア組がしのぎを削り、グランプリが決まるまでの期間にネット戦を繰り広げて自分の存在を刻み込み、自分の活動する場を獲得していくチャンスを得ることにあります。一つのミスコンの中に、商業的なコンテストとDIY的なサバイバルという異なる2つのイベントが存在しているわけで、メジャーな領域で活動していく人たちと、アンダーグラウンドな領域で活動していくであろう人たちが「女の子」であるという一点で同じ場に立ち、その表現だけでは商業的に活動を成り立たせるのが難しそうなタイプの人までがアイドルオタクによって商業的に支えられていくようになるという、凄く奇妙な構造を持つ催しです。水野しずさんのような「違う場所」からやってきた挑戦者と、ゆうこすのような芸能の世界でなければ生きられないような人が同じミスコンの出身者というのは凄く不思議な話ですよね。
 ミスiDというのは博打みたいなもので、地道な活動をすっ飛ばして上に登れるチャンスを得ようとしているわけですから、ある意味ズルい場所です。DIY枠のミスiD出場者を指して「自己承認欲求の塊」「メンヘラ」とか言われることがよくあります。確かに、それらの発言の多くは「自己主張をする女」「自分の望む自分に都合のよい女性像にそぐわない女」に対するミソジニー丸出しの発言でしかないでしょう。しかし、出場者の中には判で推したような「個性的な言動」「個性的なルックス」しか持ちあわせないような人たちも多くいます。ミスidという博打に出るにあたり、人の心を動かす活動や作品、あるいは商品価値のある履歴や容姿という担保を持たず、特異な個性を志向するがゆえに没個性に陥ってる奇矯な言動しか賭け金を持ってないとしたら、自己承認欲求とかメンヘラとか言われてしまうのは、それが良くない言葉だとしても仕方ないことなのかもしれません。博打は多くを得られる可能性があると同時に非常に危険なものです。あと、特に表現活動や芸能活動をしないまま、サブカル飲み屋みたいな場でオタクとチェキを撮ったりするのが活動になってる人を見ると、あの人は何になりたいのだろうとか、それこそ自己承認欲求で飯を食ってるだけではないかとか、不思議に思ったりしますよね。
 低年齢の時からジュニア・アイドルとしてDVDを出したりする活動を続けてきたキャリアのある女の子たちが無策のままミスiDという戦場に立ち、最後まで残れずに消えていく光景はつらいものがあります。あの子たちの場所がそこではなかっただけなのかもしれません。誰もが黒宮れいのようにあのシーンで培った怒りを抱いて突き進めるわけではないのですから。「たわいもなく可愛い」という武器しか持ち合わせなかった女の子たちが、その可愛さを閉塞した場で大人に消費され続け、日の当たりそうな最後のチャンスの場に出てきたところで、強烈な自我や、より強大な可愛いに負けていくのを見るのは、やはりツラいものです。仕方がないんですよね。どんなにかけ離れたバックボーンや方向性を持っていたとしても、ミスiDという場でメインをはれるような女の子は世界の真ん中でたった一人で仁王立ちしているような強い人たちですから。

 私個人としてはミスiDという場が好きというわけではないけど、否定的というわけでもなく、ミスコンテストの中に多様な評価基準を持ち込んで可能性を広げたという部分では評価はしています。女の子がその女の子らしくあれる場をつくる一方で、それを商業的に支えるのが結局旧来的なアイドルオタクの価値観だったりする捻れも面白いとは思っています。

<隔週金曜連載>※今回は都合により日曜公開


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【ロマン優光:プロフィール】

ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。

おすすめ前作書籍:「日本人の99.9%はバカ」/ロマン優光(コア新書)
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