エンタメの今に切り込む新企画【ザ・
    プロデューサーズ】第十二回・福田正
    夫氏



    それが「The Producers(ザ・プロデューサーズ)」だ。編集長秤谷が、今話を聞きたい人にとにかく聞きたいことを聴きまくるインタビュー。そして現在のシーンを、裏側を聞き出す企画。

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    今回のプロデューサーズは、音楽プロデューサーでありつつ、アニメ業界とも言える、マクロスΔのワルキューレの音楽プロデューサーである、フライングドッグの福田正夫氏に迫る。前作マクロスFの菅野よう子さんから、引き継ぎなにを成そうとしたのか、そこには多くの経験に基づくチャレンジが存在していた。ザ・プロデューサーズ/第12回 福田正夫氏



    ――福田さんは音楽業界に入る前に、出版社で編集者をやられていたとお伺いしました。

    そうなんです。新卒で光文社という出版社に入り、レディースコミックという当時流行っていた女性向けのエロエロな漫画雑誌の編集部に配属されました。本当はファッション誌をやりたかったのですが……(笑)。そこで6年間編集者をやっていました。でも色々あって、ある日自分がやっている仕事に疑問を持ってしまい、迷わず転職を決意し、朝日新聞日曜版の求人欄を毎週チェックしていました。そうしたらたまたまビクターが年齢、性別、経験不問でディレクター求むという求人広告を出していて、これだ!と思い、入社試験を受けて、音楽業界に入りました。

    ――入って最初に手掛けられたアーティストは?

    当時のビクターはアイドル全盛期で、SMAP、酒井法子、高橋由美子、菅野美穂、持田真樹…と錚々たるアイドルが所属しているセクションに配属されました。音楽プロデューサーってある意味総合職なので、本当は営業をやって、販促をやって宣伝やって全体を見通すという経験を積んでから就くほうが適していると思いますが、編集者からいきなりプロデューサーになって、最初は本当に右も左もわかりませんでした。

    ――編集者も仕込みから管理から全てをやる仕事という意味では、プロデューサーの仕事と似ているところもあるような感じがしますが、似て非なるものでしたか?

    そうですね、仕事の系統としては似ているかもしれないので、なんとかなるかなと思っていましたが、なんともなりませんでした(笑)。入社して3か月位で小泉今日子さんのアシスタントディレクターになって、そこから世界が開けました。僕の上司が業界の名物プロデューサーの田村充義さんで、僕は言わば田村さんの不肖の弟子です(笑)。音楽プロデューサーにとって必要なことはすべて田村さんと小泉さんから学びました。その後、田村さんについて色々仕事をしているうちに、小泉さんやアン・ルイスさんのA&Rを担当するようになったんですけど、当時TVアニメ『新世紀ヱヴァンゲリオン』が話題になっていたタイミングで、声優ブームが起こっていて、林原めぐみさんらが売れに売れていて、ビクターのJ-POPセクションでも声優をやろうということになったんです。そしたら「お前、漫画編集者をやっていたんだからアニメとか詳しいから声優やれるだろう」って言われて(笑)、「いえ、僕がやっていたのはレディコミなのでアニメとは全然違います」と抵抗したのですが、そんなこと聞いてもらえるはずもなく…。

    ――絶対言われそうです(笑)

    実はそれまでアニメとか声優とかほとんど知らなくて(笑)。結局当時青二プロダクションのジュニア所属だった桑島法子さんと豊嶋真千子さんという声優さんで、97年に「GIRLS BE」というユニットを組み、アルバムを作ったのが、僕のプロデューサーとしての最初の仕事です。当時『週刊少年マガジン』(講談社)で連載していた少年漫画「BOYS BE…」とタイアップして生まれたユニットです。J-POPのセクションで声優を手がけるが故に、従来のアニソンとは違う、J-POPの方法論で音楽を作るユニットだと謳っていました。でもやってみて気が付いたことは、アニメファンはそんな事を求めていないということでした(笑)。それで色々あって「GIRLS BE」が1年で終了することが決まり、最後にもう一枚アルバムを作ることになって、これで終わりなら好きな事やって華々しく散ってやろうと思い、ピチカート・ファイヴやオリジナル・ラヴのメンバーに参加してもらってできあがったのが『フレンチ大作戦』というアルバムです。

    ――“アキシブ系”のルーツと言われた作品で、渋谷系とガールポップとが融合した斬新な内容でした。

    当時は本当に話題にならなくて……(笑)。それから5年位経ってROUND TABLE feat. Ninoというアーティストで、『ちょびっツ』というアニメのオープニングテーマをやった時に「アニメにも渋谷系の波が」と言われはじめて、それで「どうやら『フレンチ大作戦』というアルバムがその始まりらしい」と再評価されはじめたようです。

    ――“アキシブ系”という言葉はどこ発信なんですか?

    昔『アニソンマガジン』という音楽に特化したアニメ誌があって、ある日その編集長から電話があって「今“アキシブ系”がアニメ界で流行ってきていて、それを作ったのが福田さんなんですよね?インタビューさせてください」と言われ、「いやまず“アキシブ系”という言葉、今初めて聞きましたが、そんな言葉あるんですか?」という会話をしたのを覚えています(笑)。

    ザ・プロデューサーズ/第12回 福田正夫氏

    ――渋谷系が好きだった福田さんが作ったものが、“アキシブ系”としてアニメ界を席巻していたんですね。

    「席巻」は言い過ぎだと思いますけどね(笑)。大学時代にピチカート・ファイヴの『カップルズ』というアルバムを聴いて、日本にもこういう音楽をやるアーティストが出てきたんだと衝撃を受けました。自分が聴いてきたジャズやボサノヴァ、スクリーンミュージックといった音楽をポップスという形で昇華させてくれるバンドが、初めて現れたと思いました。僕がビクターに入った時の目標は、当時のピチカート・ファイヴのメンバー全員と仕事をすることでしたが、あと仕事をしていないのはボーカルの佐々木麻美子さんだけです。それくらい好きなバンドでした。

    ――『カップルズ』も当時は全然売れませんでした。

    早すぎたんでしょうね。僕の作る作品も早すぎる、15年早いと言われました(笑)。だからやっている時は売れないんです。15年位経つと「今思えば福田はいい仕事してた」って言われるんですよ(笑)。

    ――福田さんと『マクロス』シリーズの出会いを教えてください。

    携わったのは今回の『マクロスΔ』からです。35年続いているシリーズで、中でも『マクロスF(フロンティア)』の人気が高く、同様に音楽は菅野よう子さんの印象が強いと思っている方が多いと思います。

    ――プレッシャーみたいなものはありませんでしたか?

    そうですね、菅野さんの後だったら、それはみんな菅野さんがいいって言うに決まっていますし(笑)、音楽に関してだけ言うと、何を作っても、ある意味敗戦処理のような状態になると思っていました。でも、逆転勝ちを信じて投げるためには、少なくとも菅野さんとは違う事をやらなければいけないので、それが何かを考えました。

    ――やはりそれまで福田さんが作ってきた、渋谷系のミュージシャンを起用して制作し、それが『マクロス』というアニメとどう化学変化を起こすのかを見てみたいと思ったのでしょうか?

    全く違いますね。『マクロス』は絶対に売れなければいけない作品で、それができなかったら自分が『マクロス』の歴史に泥を塗ってしまう。自分が好きなことをやると大抵売れないので(笑)、今回はとにかく自分が何をやりたいかということより、売れるものとは何なのかという根源的な問題をプロデューサーになってから初めて真剣に考えました(笑)。つまり「渋谷系」を封印するところから始めたんです。それで、ちょっと前から歌謡曲ってもう一回ブームが来るんじゃないかと考えていて、今の音楽は例えば100万枚売れたとしても、その100万人のユーザーの「世代」が決まってしまっている気がして。昔の歌謡曲って老若男女みんな聴いていて、世代間で共有できていたのに、J-POPに変わって以降、ターゲットが絞られた音楽になってしまったと思いました。でも『マクロス』は35年続いているアニメなので、初代マクロスをリアルタイムで観ていた人はもう50~60歳になっていて、逆に『~Δ』から見始める人は10代かもしれなくて、そう考えたときに10代の人も60歳の人も、みんながいいと思える音楽でなければいけないと思いました。

    ザ・プロデューサーズ/第12回 福田正夫氏

    ――なるほど。

    さらに言うとこのシリーズはまだまだ続く可能性があるので、例えば「愛・おぼえていますか」(84年)のように、30年以上前の曲ですが今聴いてもみんながいい曲だなと思えるような曲でなければいけないと。歌謡曲って何十年経ってもイントロを聴いただけで、その曲が出てくるし、目指すべきなのは昭和の歌謡曲だと思いました。

    ――J-POPではなく昭和の歌謡曲。ポップスってよく大衆音楽と訳されますが、ちょっと違うと思いますよね。大衆音楽は大衆音楽ですよね。

    そうなんです、ちょっと違いますよね。肌合いが違うというか…。

    ――福田さんはどういう歌謡曲が好きだったんですか?

    子供の頃の記憶で、朝起きると父親が必ずピンクレディーが出演している歌番組を観ていて、それを今でもすごく覚えています。「ペッパー警部」ってどういう意味なんだろうって(笑)。歌詞の奇妙さとフレーズの独特さが特に印象に残っていて、歌謡曲ってどぎついなと思いました。人の心をつかむためにはメロディも歌詞もなりふり構わないという感じがして。このなりふり構わぬどぎつさと、ベタベタ感が『マクロス』にも必要だと思いました。「ペッパー警部」もそうですが、歌謡曲には中毒性があって、この中毒性こそが人々に聴き続けられる何か大元になっているのではないでしょうか。だから今回「マクロスΔ」の音楽を作る時の自分のキーワードを“中毒性”と決めて、作り始めました。

    ――ワルキューレの作品を手がける作家陣の選び方を教えて下さい。

    まず僕の中の中毒的ソングって何だったかなと考えた時、思い浮かんだのがSMAPの「SHAKE」だったんです。キャッチーってこの曲のためにある言葉だと思ったくらいです。最初「マクロスΔ」をやる時に、制作サイドから言われたのが「5人組の女子ユニットが戦いながら歌います。彼女たちが歌い始めると戦闘機がダンスを始めます」と。何のこっちゃと思いましたが(笑)、おぼろげに「グループで歌うダンスミュージックなのかな」と考えたとき、パッと閃いたのが90年代に活躍したFolderでした。最初の頃のワルキューレの設定は、フロント2人がメインで、あとの3人は裏方に徹する感じで、そういえばFolderもそういう構成だったなと思って。Folderも大好きだったし、SMAPの「SHAKE」の事も頭にあったので、「あ、まず頼むならコモリタミノルさんだな」と思いました。

    ――Folderもいい曲が多かったですよね。最初にFolderというキーワードが出てくるあたり、目のつけどころが違いますよね。

    曲を誰に発注しようか決めるときに、アニメの場合はまず原作やプロット、シナリオを読むところから始めますが、その時に頭の中でなんとなく音が鳴るんです。曲のイメージがふわっと出てきて、この音を鳴らすのは誰だろうと探し始める感じです。だから「マクロスΔ」の時も最初に鳴ったのはFolderの「パラシューター」でした(笑)。

    ――それでまずはコモリタさんに曲を発注して。

    そうです。でも曲を発注したときは、ワルキューレのクールビューティ・美雲と、田舎から出てきた元気娘・フレイアの声を誰がやるのかがまだ決まっていなくて、そういうキャラクターをイメージして一曲ずつ書いてくださいとお願いをしました。フレイアの方はFolderのような元気で明るい曲がよくて、美雲は僕の勝手なイメージですが中森明菜さんだったんですね。中森明菜さんの全盛期に今のコモリタさんが曲を書くとしたら、というオーダーをしたら、美雲用に「いけないボーダーライン」、フレイア用に「ルンがピカッと光ったら」という曲が上がってきました。「ルン~」はFolderというより「SHAKE」っぽい感じになりましたが…(笑)。「いけないボーダーライン」を聴いたときは、そのあまりのメロディーのヒキの強さに「これで今度のマクロスはいける!」と思いました。

    ザ・プロデューサーズ/第12回 福田正夫氏

    ――ワルキューレの歌が、聴く人の心をがっちりつかんだのは、5月に行われた「マクロスΔ(デルタ)」OP&EDテーマ発売記念イベント~『歌は神秘!“ワルキューレ” ワクチンミニライブ@ラゾーナ川崎プラザ』に集まった、もの凄い数の人を見てわかりました。

    5千人はいたような気がします。あの風景を観たときに河森総監督が「菅野よう子さんの後でどうなるか不安でしたが、福田さんのおかげでワルキューレがここまで盛り上がった。ありがとう」と言ってくれたことがすごく嬉しかったですね。『マクロス』の音楽プロデューサーとして最低限の責任は果たせたんだなと初めて実感できた瞬間でした。

    ――9月28日に発売されたワルキューレの2ndアルバム『Walkure Trap!』は好調な売上げで、評価も高いです。1曲1曲のクオリティが高く、メロディが耳に残って、しっかりと“作り上げている”質感が心地いいです。

    僕は“平凡の非凡”という言葉が大好きで、非凡なものを作るのに変わったことをやるのではなく、当たり前のことをやっているがゆえに、非凡であるという境地に達するのが、自分の中の目標です。そういう意味では、7月にリリースした1stアルバムも今回の2ndアルバムも、すごく当たり前の歌謡曲を作ったつもりで、でもそれが当たり前ではないという評価をしていただくことが多いので、自分が理想としていたところに近づけた感はあります。1stアルバムは売れるために歌謡曲のど真ん中をやろうと思って作ったのですが、2ndはむずむずと悪い虫が出てきまして(笑)。TeddyLoidや Rasmus Faberに作編曲を頼んだり、ちょっとオシャレにしすぎたかもしれない(笑)。よくも悪くも1枚目とは違うアルバムになりました。

    ――作家陣の名前をみているだけで、わくわくします。

    『マクロス』って特殊なアニメで、あれだけ音楽をうまく使ってくれるアニメは他にはないと思います。自分がプロデュースした曲が、ああいう風に使ってもらえるとすごく感動しますし、僕がこれだけ感動するわけですから、作家陣はもっと感動していると思います。なので、なるべく多くの人にこの感動を味わって欲しいと思い、とにかくたくさんの作家さんに依頼をしました。

    ――ワルキューレの曲はどの曲も一度聞くと耳に残りますが、難しくて歌い手は高度なテクニックを求められますよね。ハモりまくるのもインパクトがあります。

    僕は歌い手ではないので、その辺がよくわからないのですが(笑)、やっているうちにだんだんコーラスグループにしたいなと思ってきて。今のアイドルグループって基本はユニゾンで歌っていて、あれがすごく違和感があって、何人もいるんだったらハモったほうが間違いなく音楽的に豊かになるのにと思ってしまいます。ただ、ワルキューレは歌っているのが声優さんで、歌が本職ではないので、最初は三声四声でハモれというのも酷だよなと思い、自粛していました。でもやってみるとみんな歌がうまくて、これならハモれそうだなと思い、途中から路線変更してワルキューレはハモりまくるグループにしてしまいました。

    ――曲が上がってきたら、まずコーラスアレンジから考えるという感じですか?

    メロディが立った曲が欲しいというオーダーの仕方が多いので、まず強いメロディを作ってもらって、そこからこれをどうハモっていきましょうかという感じです。でも今どきの作家さんは、ハモることを前提に作ってきます。逆に最初から四声、五声でハモる事になっていることがあるので、いやいやそれでは主メロが立たないでしょうって削っていくこともあります。

    ――メロが立ってしっかり主張しているから、どんな人が聴いても耳に残るのだと思います。

    年齢が上の人には懐かしい感じに聴こえ、若い人には新鮮に聴こえると思います。「古くて、新しい」が狙いどころでした。これだけベタベタ感を堂々と出している音楽って、今どきなかなかないと思います。

    ザ・プロデューサーズ/第12回 福田正夫氏

    ――そのベタベタ感のある曲を、美雲として歌っているのが、15歳のシンガーJUNNAさんというのも面白いですね。最初彼女の声を聴いたときは、どう感じました?

    ついに見つけた!と小躍りしました。美雪の歌い手が本当に見つからなくて、テレビの放送日が決まっていて、ここまでに音を作らなければいけないという期限が近づいていたので、焦っていました。美雲は圧倒的な歌唱力を持っているという設定だったので、そこそこ上手い程度では、何も響かないんです。それで見つけられなくてどうしようと思っていたら、ビクターの新人開発のセクションのスタッフから「こんな子がいるけど」と、彼女が歌っている動画を見せてもらって、すぐにこれだ!と思いました。

    ――ピンと来たわけですね。

    本人を説得する前にまずアニメ制作サイドのOKを取らなければいけないわけですが、河森総監督が気にしていたのが、美雲の声優さんと歌い手が別になってしまうという部分でした。今は、声優さんやアイドルが一生懸命歌っている、頑張っているその姿にユーザーが共感するタイプのアニメが多い中で、声の部分と歌の部分の人が違うということが、果たして受け入れられるのだろうかと、最後まで心配していましたが、最終的には声と歌を分ける方向で決断してくれました。『マクロス』はある意味音楽で魅せるアニメなので、大前提として「『マクロス』で歌っている人はやっぱり歌がうまい!」と思ってもらわければいけないので。

    ――JUNNAさん、15歳とは到底思えない歌のうまさと表現力です。

    彼女がすごいなと思うのは、年齢も関係していると思いますが、成長が速いんです。1stアルバムと2ndアルバムを聴くとまるで別人だし、歌えば歌うほどどんどんうまくなっていってる。吸収力があるんでしょうね。

    ――将来も有望な、末恐ろしい15歳です。

    この仕事をしていていつも思うのですが、プロデューサーって他人の人生を変えてしまう仕事なんです。彼女も僕があの動画を観なければ、全く別の人生があったかもしれないですし、他人様の人生を自分が左右してしまうことに、すごく責任を感じています。だから預かったからには、彼女が「この仕事をしていて本当に幸せ」と思える人生にしなければいけないと思っていますし、「福田さんのおかげで、自分の人生はこんなに幸せになりました」と言ってもらえる時は本当に嬉しいですが、その逆のことを言われる時ほど辛いことはないです。

    ――プロデューサーに一番必要なものは何だと思いますか?

    バランス感覚ではないでしょうか。僕は割と自分の事を「バランサー」だと思っていて。自分がやりたい事をやって、みんなを引っ張っていかなければいけなくて、でも僕がやりたい事と他の人がやりたい事とは違う場合もあるわけで、そういう時に、自分がやりたい事を貫くために、みんながやりたい事と僕がやりたい事が、実は同じなんですよ、という話に持っていかなければいけないわけです。そのためには、ひとつのプロジェクトの中で自分の重心をどこに置くか……アーティスト側なのか、マネージメント側なのか、レーベル側なのか、あるいはそのド真ん中なのか……そういうことを常に考えながらプロジェクトのバランスをとっていくことがとても大切ですし、一番気をつけている部分です。

    ザ・プロデューサーズ/第12回 福田正夫氏

    ――坂本真綾さんも福田さんが手掛けているアーティストですが、福田さんが関わるようになって、彼女の音楽がすごくオシャレになった気がします。やはり福田イズムが浸透している感じがします。

    確かにそう言われることがあるのですが、自分ではあまり意識したことがなかったです。彼女の場合は、彼女が元々持っているものに触発されて、自然に方向が決まっていく感じですね。

    ――本当にうまい人と、頑張って、育っていって歌がうまくなりましたという人とでは、やはり歌の感じが違います。

    ワルキューレは歌で戦争を止めさせたり、銀河に平和をもたらす存在なので、「アイドルになるために頑張ってます」的な作品、登場人物とはそもそもの成り立ちが違います。最初はアイドルっぽい曲でいいんだろうなと思っていたんですが、始まってみたら全然違いました。特に今回の「マクロスΔ」ではワルキューレは戦場で、流れ弾が飛び交う中で命がけで歌っていて、それを観て僕も考えを改めて、作る曲を変えなければと思い、途中から曲にシリアス度を増していきました。彼女たちの歌を聴いたら、ヴァール(人間が突然我を失い凶暴化する症候群)が鎮圧されるという設定なので、観ている人に、この歌だったら人は癒される、安らかな気持ちになると思ってもらわなければいけないので、そこはすごく難しいところでした。

    ――来年1月28日にワルキューレの2ndライヴが横浜アリーナで行われますが、どんな内容になるのか、まだしゃべれないとは思いますが、ちょっとだけ教えて下さい。

    すみません。まだしゃべれないです(笑)。ただ先日Zeppツアーをやったのですが、その時よりは持ち曲も増えていますし、ワルキューレの魅力をすべて出し切るようなライブにしたいと思っています。

    ――最後に、音楽業界、音楽ビジネスの今後について、どこに向かおうとしているのか聞かせていただけますでしょうか?

    今、CDを始めとして、市場がどんどん小さくなっているとは思いますが、ただ音楽への興味がみんななくなってきているのかといえば、そんなことはないですよね。今回『マクロス』をやってみて思ったのは、やっぱりいい歌を作るとちゃんと世間が評価してくれて、売れるんだなということです。すごく当たり前の事が、初めてわかったという感じで。今まで色々な事を考えすぎていた部分があって、でも小手先のテクニックではなく、時代が過ぎていっても残る歌を作ることができれば、人は聴いてくれるということがわかったことが、僕にとっては救いでした。この先、音楽の出口がどういう風に変わっていくのかはわかりませんが、でも歌は変わらず残ります。今のJ-POPって結局は二匹目のドジョウなんです。何か売れるとすぐにその流れに群がって、それの繰り返しで、でもアニメの音楽プロデューサーをやってわかったのは、アニメ音楽ってもっと自由なんです。何が今売れているかではなく、作品に沿ったものを作れば、その作品のファンが評価してくれます。だからジャズやボサノヴァをやっても作品の世界観にハマれば売れるときは売れますし、時代の流行とは全く別のところで好きな事ができるところが、アニメ音楽の魅力です。こんなに制約がない場所で音楽を作ることができて、幸せです。

    ザ・プロデューサーズ/第12回 福田正夫氏


    【編集後記】今回は今までの音楽プロデューサーとは少し毛色を変え、アニメに付随した音楽プロデューサーへのインタビューとなりました。作品があり、そのコンセプトや元々のファンがいる状態での音楽制作、またキャストや作家のチョイスは、また全く違った側面を持つ作業でした。印象的なのは、JPOPすらもニッチな音楽であるというとらえ方。歌謡曲ほど、日本のマーケットで対象の世代やシーンを広くカバーできるジャンルはない。正にそうかもしれません。人の印象に深く残る歌詞やフレーズ、突き詰めていくと、時にいなたくて、意味など含まない。

    福田さんのおっしゃっていた「平凡の非凡」やはりここでも、しっかりとコンテンツをきっちりと作っていくことの肝要さが語られます。「いい歌」を作る「いい曲」を作る。ここまで皆が口をそろえてこの方向に向かっているのだから、それをやっていない人たちが淘汰されていくのもあたりまえですよね。

    各シーンにおいて、こうしたモノづくりをしている人たちのリレーションシップ。この企画が少しでもそのブリッジになれたらなと感じた一幕でした。

    SPICE総合編集長:秤谷建一郎
    企画・編集=秤谷建一郎  文=田中久勝  撮影=三輪斉史


    プロフィール福田正夫

    株式会社フライングドッグ音楽制作部長

    1967年、群馬県生まれ。大学卒業後、雑誌編集者を経て、ビクターエンタテインメント(株)に入社。邦楽プロデューサーを経て、アニメ音楽プロデューサーに。「渋谷系」の流れをくむ個性的なサウンドクリエイターを起用するプロデュース・スタイルをアニメ界に持ち込んだことから、“アキシブ系の創始者”と呼ばれる。フランスのDJ、Dimitri From Parisを起用した「Neko Mimi Mode」や、Rasmus Faberをプロデューサーに迎えた中島愛の「TRY UNITE!」、坂本真綾をthe band apartとコラボさせた「Be mine!」など、斬新な人選によるハイブロウな音作りが常にアニメ界に衝撃を与え続けている。

    SPICE

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