極私的『HiGH&LOW』の楽しみ:ロマン
優光連載65

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第65回 極私的『HiGH&LOW』の楽し

 大爆音と共に吹き飛ぶスラム街。普通の商店街の壁をぶっ壊して現れるダンプ。暴れまわる男たち。
「街がむちゃくちゃじゃないか!」

 いやー、『HiGH&LOW THE MOVIE』最高! やっぱ、男として産まれたからには、一度は日向みたいにアメ車のボンネットに寝そべりながら爆走してみたいですよね。いきなりそんなこと言われても「どうしちまったんだよ琥珀さん!」という気分になってしまうと思うので、最低限の説明をさせてもらいますね。

『HiGH&LOW』とはEXILEE-girlsなどが所属する事務所・LDHによって生み出され不良バトルアクションで、テレビシリーズは2seasonまで製作され、映画『HiGH&LOW THE MOVIE』はドラマ版の総集編ではなく、ドラマの続編が展開されてます。内容はシンプル。「個性的な不良チームの個性的な不良たちが殴り合う。悪いヤクザとも戦う」、はっきり言って基本はそれだけです。映画公開直後はLDH所属タレントのファンにしか届いてなかったところが、その個性的なキャラクターたち、ハイテンションかつハイクォリティなバトル・シーン、映画全体を支配する独自のグルーヴといった魅力が、映画を見た人たちのハイテンションで楽しそうな常軌を逸したツイートによってTwitter上で広まっていき、今までEXILEに興味がなかったような層にじわじわと浸透してきているのです。私もEXILEに全く興味がないタイプの人間だったのですが、今では『HiGH & LOW』のとりこ仕掛けの明け暮れになってしまいました。
『HiGH&LOW THE MOVIE』、映画として考えるならデキのいい映画とは言えません。一部の人の演技力であったり、ストーリーに矛盾があったり、ドラマ版全20話に渡る膨大な基本設定をストーリーの中で描写で説明するのではなく簡単なナレーションで説明してしまったり、いきなりドリフトしてきた車に目の前で女の子が攫われてもボンヤリ立ってる人がいたり、穴だらけです。その穴もかなりのガバガバです。もう、太平洋なみです。でもねえ、一度はまってしまうと、その穴を自然に脳味噌が補完していってしまうのですよ。
 最初は驚愕や疑問の対象でしかなかったAKIRAさん演ずる琥珀さんの演技も、「ああ、琥珀さんは本当におかしくなってしまったんだな。誰がどう見ても異常だもんな。」と自然に受け入れられるようになるし、目の前でさっきまで話していた人が攫われても何もしない雨宮三男の様子も、「人間、あんまりビックリすると思考が停止しちゃうからな。リアリティがある。あんなドリフトかまして人を攫っていく車が現れたら、そりゃビックリするわ。」と納得。街が暴漢に荒らされた様子を見たヤマトが「街がめちゃくちゃじゃないか!」と何の捻りもなく見たまんまのことをいうのも、「自分の街にダンプが突っこんできて、暴漢が大暴れしてたら、それぐらいしか言えないよな。リアリティがある。」と納得するし、ヤマトの直情的で単純な性格をわかりやすく伝える名台詞としか思えなくなります。最終的には演技としてとらえるのではなく、「あれはああいう人なんだ。」と普通に思ってる自分に気付くのです。

 何故、普通の商店街のすぐ近所にSFチックなスラム街が? 平均年令23才の不良高校とは? 琥珀さんの様子がおかしすぎる? 李さん何喋ってるのかわからない…? 色々な疑問が浮かぶことでしょう。しかし、そんなことはどうでもいいことです。見ているうちに自然に自分の脳味噌が補完してくれます。 自分はドラマ版を全然見ずに映画を見に行ったのですが、膨大な数の登場人物が現れ、劇中で関係性の説明がほぼ無いわりには自然に受け入れられたんですよね。それは何故か? 私は不良漫画が好きなんですが、不良漫画を読むことで体内に形成された回路が自然に働いて、鬼邪高は鈴蘭、おにぎりは田中宏的手作り料理最高思想、轟は表面では村山くんを敵視してるが本当は深いリスペクトがあり心の底で強い絆がある、といった風に自然に過去の不良漫画と結びつけていけたんですよね。私にとって『HiGH&LOW』は様々な不良漫画の中の最高のキャラ、最高の名シーンを寄せ集めた最高の二次創作不良漫画が、何故かEXILEマネーの力で実写映画として現実化した奇跡のような作品なのです。
『HiGH&LOW』では演者のアドリブも多く、キャラ造りも演出も演者自身のプランによるところが大きなウェイトをしめます。演じる各人の不良漫画感の違いがバラエティ溢れる個性的なキャラ群像につながるわけで、自分が好きなキャラを好きなように演じられるわけだから、みんな楽しそうでテンション高いんですよ。そのわけのわからない熱気が見るものを巻き込んでとりこにしていくわけです。
『HiGH&LOW』は見る人によって物語が違う作品でもあります。ガバガバの部分を各人が自分の脳味噌で補完していくから、各人のバックボーンによって色んな差異が産まれます。どんな不良漫画を読んできたかによっても変わるし、不良漫画の部分も、人によっては少年ジャンプ的なバトル漫画だったりBL的な作品だったり漫画ではない何かだったりするでしょう。ホモソーシャルなバトルものだったら何でも代入できるんです。そういうのない人には映画が最初はつらいかも…まあ、そういう人はドラマから見てもつらそうですが。
 本来だったら欠点でしかない穴の数々が、各人の想いと熱を乗せた器になる。『HiGH&LOW THE MOVIE』は映画というよりは参加型の祭りなのかもしれません。映画を見た後にテレビ版を見て補完する。さらに生まれた穴を自分の脳味噌が補完する。そして再び映画を見る。それを繰り返して自分だけの『HiGH&LOW』を自分の中に作り上げていく。時には他の人の『HiGH&LOW』に羨望の眼差しを送ったり。それが私の『HiGH&LOW』の楽しみ方のような気がします。

『HiGH&LOW THE MOVIE』は欠点だらけの映画ですが、そんなことはどうでもよくなるくらい面白いんです。そして、最後に一つだけ言うことがあるとするなら

「SWORDの祭りは達磨通せやあッッッ!」

<隔週金曜連載>


図版:映画「HiGH&LOW THE MOVIE」ポスター (C)2016「HiGH&LOW」製作委員会 全国の映画館で上映中(配給:松竹)

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ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。

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