僕が悲しい歌を求める理由――椿屋四
重奏『LOVER』

応援歌や片想いの歌など色々なテーマを扱った歌が世界には沢山溢れているが、その中でも多くの人の心を捉えて離さないのが、孤独や失恋などを描いた「悲しい歌」。
音「楽」の字の通り、私達は日頃音楽を聴く時、楽しむために聴いている。それなのに、何故悲しい歌に惹かれるのだろう?

沢山の悲しい恋の歌を残した椿屋四重奏と言うロックバンドがいた。2000年に結成された彼等は、歌謡曲的なメロディと現在はシンガーソングライターとして活動しているボーカル中田裕二の艷やかな色気のある歌声によって、既に解散してしまった現在でも多くの邦楽ロックファンから絶大な支持を得ている。
そんな彼等の楽曲の中でも特に人気を集めているのが、メジャーデビュー曲の『LOVER』。
この曲の歌詞はこんなフレーズから始まる。



雨は悲しい歌の歌詞によく登場する、「悲しみ」の象徴。そして「君」は何かの希望を失った女性だ。
その後に登場するフレーズから、彼女は「きれいな心」でいようとするあまりに傷ついた女性であることがわかる。



「君」は、この曲の主人公「僕」に縋りつく。そして「僕」は彼女を受け入れる止まり木のような存在になり、「迷わないでおくれよ」と祈るのだ。



この曲の中で描かれるのは、救いのない退廃的な恋だ。それでも二人は互いに求め合うことを止められない。



曲の最後まで、ふたりは報われないまま終わる。それでもこの曲をきっかけに椿屋四重奏を知り、好きになったという人も多い程、バンドが解散した今でもファンの間では「名曲」と言われ続けているのだ。
それはきっと、この曲が聴いている人ひとりひとりの悲しみにそっと寄り添ってくれるからなのだろう。



この曲の中で描かれているのはあくまでも「救われない恋」。だけれど、英語のフレーズなどを使わず美しい日本語だけにこだわって情感豊かに描かれる切ない感情は、失恋に悲しむ人だけでなく色々な悲しみを抱えた人の心に寄り添ってくれる。
自分の悲しみに寄り添ってくれるような曲に出会えると、私達はまるで自分の気持ちを代弁してくれたような気持ちになって嬉しくなる。だからこそ、どうしても惹かれてしまうのだ。

作詞作曲を手がけた中田は、玉置浩二THE YELLOW MONKEY吉井和哉などに影響を受けたと公言している。思い起こせば彼らも、やるせない気持ちや悲しみを歌の中に込めた名曲を数多く残している、日本を代表するミュージシャンだ。

私達にはどんなに「頑張れ」と励まされても、甘い言葉をかけられても、どうしても元気が出ない事がある。勿論、そんな時には明るく楽しい歌を聴いても素直に楽しめないものだ。
私達が「悲しい歌」に惹かれるのは、そんな気持ちを優しく抱きしめてくれるからじゃないだろうか。


TEXT:五十嵐 文章

UtaTen

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